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東京地方裁判所 昭和47年(行ウ)48号 判決 1974年5月27日

原告

星野和二

右訴訟代理人

秋山泰雄

外一名

被告

神田郵便局長

浜谷政雄

右訴訟代理人

藤堂裕

外六名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者双方の求めた裁判

(原告)

一  被告が原告に対し昭和四六年五月七日付でなした俸給額の一〇分の一の減給一ケ月間の懲戒処分を取消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決。

第二  当事者双方の事実上、法律上の陳述

(原告の請求原因)<略>

(被告の答弁及び主張)

一  請求原因一、二項の事実は認めるが、三項の主張は争う。四項の事実は不知。

二  被告が本件処分を行なうに至つた経緯及び理由は次のとおりである。

(一) 原告は、昭和三六年九月一日から臨時補充員(常勤職員)として神田郵便局に採用され、昭和四一年一〇月一日からは郵政事務官に任命されて、右採用から本件懲戒処分の時まで、同局郵便課に勤務していた者である。なお、原告は、全逓神田支部に所属する全逓組合員である。

(二) 神田郵便局郵便課は、一般公衆の来客に接して書留の引受や交付、切手売捌をする等各種の受付事務にみられるように来客と直接金員、物品を授受する業務を主体とする窓口事務と、主として郵便物の取揃えや区分、郵袋の処理をする等来客と接することのない業務を担当する通常事務その他によつて構成されている。そして、これらの事情は、俗に窓口係、通常係と呼称されていたが、同局の組織機構としては、「係」としての分掌はなく、同一事業所における同一課内の事務分担として区分されていたに過ぎない。

(三) ところで、全逓は、昭和四六年四月二六日以降、賃上げ等の要求をかかげ、いわゆる三六協定締結を拒否して斗争を行ない、神田郵便局においても、同日以降時間外労働の拒否を行つて斗争に入つた。そして、同局においては、一部の課においてそこの一部職員が、幅一〇センチメートルの赤地に白く「全逓神田支部」を染めぬいた腕章を着用するようになり、原告が属する郵便課においても同月二七日から一部職員がこれを着用するようになつた。そして、いわゆる窓口係のなかでは、原告と訴外横松将生だけがこれを着用して勤務に就こうとした。

(四) 右の事態に対して、当時の神田郵便局長安藤保正は、これを重視して、同月二七日、二八日の両日にわたつて、部下を介し或いは自ら、右両名に対して再三腕章を取り外して勤務するよう命じたが右両名はこれに従おうとすることなく、とりわけ同月二八日には、右局長は、右両名を局長室に呼び、窓口に勤務する者が前記のような腕章を着用していることは、一般公衆の来局者に不快感や奇異感を与えるので、局の業務遂行上の支障となるからぜひ取り外すよう説諭するとともに、その取外しを命じたが、右両名はこれも無視し、右命令に従おうとしなかつた。

そこで、右局長は、これ以上右両名を窓口に勤務させておいたのでは、一般公衆から苦情が申し入れられるなど同局の公務に対する不信を招くおそれがあると考え、早速右両名を公衆に接することのない通常事務の担当に変えるよう郵便課長に命じ、同月二八日午後四時頃、郵便課長は、右両名に対して五月一日から通常係で勤務するようにとの命令を通告した。しかして、原告は、同月三〇日午後二時頃、郵便課長から、五月一日以降の通常係における勤務時間は、窓口係における勤務時間で仕事をするようにとの指示を受けたが、原告は、これに対して「一応きいておくけれども従う必要はない」と答えて右課長の命令を拒否した。

(五) その後同日原告が退庁するまでに、同局郵便課では、原告が通常係で勤務する場合、一人だけ窓口係の勤務指定表に従つた勤務時間割で勤務することは休息時間等に特例の時差を生ずることになり、これでは通常係の勤務体制の統一がはかられないと判断し、原告については、これまで原告が窓口で勤務するにあたつて決められていた出退勤時間に最も近い勤務時間を指定し、且つ一般に通常係で採用されている特殊な勤務時間(いわゆる十六勤)については、これを原告に対しては指定しないこととして、改めて、原告に対して、右の指定に従つて勤務するよう命じたが、原告はこれを拒否したのである。

(六) かくして、原告は、同年五月一日以降同月六日まで勤務日数にして三日間(一日、四日、六日。他は休日)、上司の職務上の命令を無視し、これに従つた勤務をせず、職務を放棄した。しかして、原告に対する本件懲戒処分は、右の職務上の命令に違反して職務を放棄したことについてなされたものである。すなわち、

(1) 原告の同年五月一日における勤務は、午後二時一五分から同一〇時までの間(神田郵便局郵便課服務表の符号「夜勤5・B」)同局三階郵便課事務室において主として普通郵便物の処理に当る通常事務に従事するように命ぜられていたが原告は同日右事務に服さなかつた。

すなわち、原告は同日午後〇時三五分ごろ出局し、出勤簿に押印したのち、同〇時四〇分ごろ、同局職員約三〇名とともに同局一階窓口事務室へ入室しようとして窓口事務室に通じる扉前に押しかけこれら多数人の入室を制止した古田土同局次長、大野貯金課長、町田郵便課副課長、中川貯金課課長代理らの制止を無視しこれを排除して強引に窓口事務室に入室した。午後〇時五〇分ごろに至り大部分のものが退去したのちも、原告は同八時二五分ごろに至るまでの間、ほとんど同室内にたむろした。

この間原告の始業時刻であつた午後二時一五分前に古田土次長、小林郵便課長らが原告に対し再三にわたり同室から退去するように命じたにも拘らず、右各命令を無視して退去せず始業時刻であつた午後二時一五分以後においては古田土次長、小林郵便課長、佐野郵便課課長代理らが原告に対し再三にわたり三階郵便課事務室に行つて前記通常事務に従事するように命じたにも拘らず右各命令を無視して就労しなかつた。そして同八時二五分ごろ原告は本来いまだ勤務時間中であつたにも拘らずいずれかへ立去つたまま通常事務には全く従事せず当日の職務を放棄した。

(2) 原告の同年五月四日における勤務は午前九時二〇分から午後五時五分までの間(前記服務表の符号「日勤5・B」)前記同様の通常事務に従事するように命ぜられていたが原告は同日右事務に服さなかつた。

すなわち、原告は午前七時四七分ごろ出局し、出勤簿に押印したのち、同七時四九分ごろから窓口事務室へ入室しようとして安藤局長、古田土次長らの同局管理者の制止を無視して窓口事務室への入室をこころみるなどの行為をくり返し午後〇時四〇分ごろに至るまで一階郵便課事務室の窓口事務室に通じる扉前付近にたむろした。

この間始業時刻であつた午前九時二〇分前に安藤局長、古田土次長らが原告に対し再三にわたり退去を命じたにも拘らず右各命令を無視して退去せず、始業時刻であつた午前九時二〇分以後においては、安藤局長、古田土次長、小林郵便課長、前川郵便課副課長、寺田郵便課課長代理らが原告に対し再三にわたり三階郵便課事務室に行つて前記通常事務に従事するように命じたにもかかわらず右各命令を無視して就労しなかつた。

そして午後〇時四〇分ごろいずれかへ立去つたが、再び同一時三二分ごろ前記扉前に現われたので古田土次長が、かさねて前記同様に就労を命じたが、右命令にも従わず、同一時四〇分ごろには同局六階組合事務室(全逓信労働組合神田支部に対して使用を許可してある部屋。以下同じ。)に至りそこにおいて前川郵便課副課長が再度原告に対して前記通常事務に従事するように命じたが、右命令にも従わなかつた。同二時五分ごろ、原告は勤務時間中であつたにも拘らず、同局庁舎より退局し、同三時ごろ再び入局して六階組合事務室へ赴いたので、その直後から同三時三〇分ごろまでの間、同組合事務室前において古田土次長、小林郵便課長らが原告に対して再三にわたり前記同様に就労を命じたが、右各命令にも従わず、引続き同三時三〇分ごろ、原告は一階窓口事務室へ赴いたので、古田土次長、小林郵便課長らも原告のあとを追つて窓口事務室へ赴き、さらに前記同様に就労を命じたが右各命令をも無視して就労しなかつた。そして午後三時三五分ごろ、原告は本来いまだ勤務時間中であつたにも拘らずいずれかへ立去つたまま通常事務には全く従事せず同日の職務を放棄した。

(3) 原告の同年五月六日における勤務は午後二時一五分から同一〇時までの間(前記服務表の符号「夜勤5・B」)前記同様の通常事務に従事するように命ぜられていたが原告は同日右事務に服さなかつた。

すなわち、原告は午後〇時三六分ごろ出局し、出勤簿に押印したがそのままいずれかへ出向いたまま始業時刻であつた午後二時一五分となつても三階郵便課事務室に現われず、したがつて就労せず、同二時二〇分ごろから同八時三〇分ごろに至るまでの間ほとんど同局六階組合事務室にたむろしており、この間小林郵便課長、前川郵便課副課長、寺田郵便課課長代理らが再三にわたり同室に赴いて原告に対し前記通常事務に従事するように命じたが原告は右各命令を無視して就労しなかつた。そして午後九時二九分ごろ原告は本来いまだ勤務時間中であつたにも拘らず同局庁舎より退局し、同日通常事務には全く従事せず同日の職務を放棄した。

(4) 前記(六)に記載の原告の行為は、国家公務員法九八条一項、九九条、一〇一条一項にそれぞれ違反するものであり、同法八二条各号に該当するので同条および人事院規則一二―〇を適用して被告神田郵便局長は、昭和四六年五月七日原告に対し減給(一ケ月間俸給の月額の一〇分の一の減給)たる懲戒処分をなし、同日文書によつて懲戒処分書および処分説明書を原告に交付したものである。<中略>

(原告の主張に対する被告の反論)

(一)(3)  右のことは、窓口事務と通常事務の労働条件等を対比してみても明らかなところである。

神田郵便局における郵便課の窓口事務といわれるものは一般公衆の来客する窓口において①事故受付、書留交付②書留引受③切手売捌④計器別納⑤税付納付⑥外国小包引受⑦内国小包引受⑧私書箱受付までのほぼ八種の態様の事務を取扱うものである。また、郵便課の通常事務といわれるものは①郵袋の運搬②開袋③締切④郵便物の取揃⑤区分⑥郵便物の押印⑦計画的事務⑧事故郵便物の処理という態様の事務でありそのうち郵便物の取揃え区分事務が主な事務といえる。<中略>

(三)  本件勤務指定の適法性

(1) 勤務指定の性格

勤務指定は、国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法六条、郵政事業職員勤務時間、休憩、休日および休暇規程(以下「勤務時間規程」という。)二六条により所属長が職員の各日の勤務の種類、始業待刻および終業時刻(ただし、勤務の種類により明らかである場合は省略する)ならびに週休日を指定するものである。そしてこの指定により職員はその勤務すべき日および始終業時刻ならびに週休日が具体的に決定されるものである。しかして、この勤務の指定は、勤務時間規程二五条の規定に基づき所属長があらかじめ定めた服務表に明定されている勤務の種類、始終業時刻等の中から所属長が自由に選択して指定することができるのであつて、職員はその指定に従つて勤務しなければならないものである。

(2) 勤務指定の方法

ところで勤務の指定は、勤務時間規程二六条「勤務時間および週休日等に関する協約」付属覚書一九項によつて四週間を単位として、その期間内の各日の勤務の種類等を指定するものであり、しかもこれを当該期間の開始日の一週間前までに関係職員に周知することとされている。<後略>

理由

一原告が神田郵便局郵便課に勤務する現業国家公務員であること、被告が昭和四六年五月七日、原告に対し俸給額の一〇分の一の減給一ケ月間の懲戒処分に付する旨の意思表示をしたことはいずれも当事者間に争いがない。

二本件処分の対象となつた処分事由の存否について判断する。

(一)(1)  原告は全逓神田支部に所属する全逓組合員であるところ、全逓は昭和四六年四月二六日以降賃上げ等の要求をかかげ、いわゆる三六協定締結を拒否して斗争を行ない、神田郵便局でも同日以降同様の斗争に入つたこと、同局では一部の課においてそこの一部の職員が幅一〇センチメートルの赤地に白く「全逓神田支部」と染めぬいた腕章を着用するようになり、原告が属する郵便課においても同月二七日から一部職員がこれを着用するようになつたこと、そしていわゆる窓口係では原告と訴外横松将生だけがこれを着用して勤務に就こうとしたこと、

(2)  神田郵便局長安藤保正は原告に対し二度にわたり右腕章の取りはずしを命じたが原告はこれに従わなかつたこと、

(3)  そこで同局長の命を受けた小林郵便課長は同月二八日午後四時頃原告に対し同年五月一日からいわゆる郵便課通常係で勤務するよう担務変更命令を通告し更に同課長は四月三〇日午後六時頃原告に対し五月一日以降のいわゆる通常係における勤務時間につき既に指定済の勤務時間を被告主張のとおりの新勤務指定のそれに変更する旨通告し、右指定に従つて勤務するよう命じたが、原告はこれを拒否したこと、

(4)  しかして原告の同年五月一日の勤務につき原告に対しその勤務時間及び勤務場所について被告主張のとおりの命令が被告によりなされたこと、原告が被告主張の時刻ごろ窓口事務室に入室した後退室したこと、古田土次長らが原告に対し同室からの退去並びに三階郵便事務室において通常事務に従事するように命じたが原告がこれに応じなかつたこと、同月四日の勤務につき原告に対しその勤務時間及び勤務場所について被告主張のとおりの命令が被告によりなされたこと、原告が被告主張の時刻に窓口事務室に入室しようとしたが安藤局長らに制止されたため原告は窓口事務室前廊下に待機したこと及び安藤局長らが原告に対し被告主張の場所でその時刻ごろ退去並びに三階郵便課事務室において通常事務に従事するよう命じたが原告がこれに応じなかつたこと、同月六日の勤務につき原告に対しその動務時間及び勤務場所について被告主張のとおりの命令が被告によりなされたこと及び小林郵便課長らが原告に対して通常事務に従事するように命じたが、原告がこれに応じなかつたこと、

以上の各事実は当事者間に争いがない。

(二)  原告は、本件担務変更命令は任用関係の上で予定されていない労働条件(内容)の一方的変更であるからこれに従う義務はないと主張するので、この点につき判断する。

(1)  まず郵便等の事業に従事する現業国家公務員の勤務関係の法的性質について判断するに、右事業は、公権力の行使を伴う一般行政作用とは異なり、郵便等の経済的役務の提供を目的とする企業活動であり、郵便役務を安い料金で、あまねく、公平に提供するため国が経営しているに過ぎないものであつて、ここに勤務する職員に公権力の行使と何ら無関係の経済活動に従事することを職務内容としている点で公共企業体の職員との間に何らの差異はないといえること、更に実定法上右事業に従事する職員は一般職に属する国家公務員の身分を有するが(公労法二条二項二号)、労働関係については公共企業体の職員と同じく公労法が適用されるから、非現業一般職国家公務員と異なり、労働組合法、労働基準法、労働関係調整法、最低賃金法が適用され(公労法四〇条、国公法附則一六条)、賃金その他労働条件に関する事項は団体交渉の対象とされ、労働協約を締結することができる(公労法八条)こと、以上の点から考えれば、前記郵便等の事業に従事する現業国家公務員の勤務関係の法的性質は、基本的には一般の私企業のそれと何ら異ならないといえなくはない。しかしそのことから直ちに郵便事業に従事する現業公務員の勤務関係の法的性格を、私法上の労働契約関係であると断定することはできないのであつて、それは国家公務員法及び人事院規則の諸規定が右勤務関係の実態をどのようにとらえて法的規制をしているかが検討されなければならない。しかして、郵政省設置法二〇条、公労法二条二項二号、国の経営する企業に勤務する職員の給与等に関する特例法二条二項の規定の存在すること、右郵政現業公務員の勤務関係の基本をなす任免、分限、懲戒、保障、服務関係等については、国公法及び人事院規則の各規定がほとんど適用されること(公労法四〇条)に照らせば、郵政現業公務員である原告と郵政省との間の勤務関係は、前記のような私法関係の規定の適用を受ける分野があることをもつて直ちに当事者対等、私的自治の原則が支配する私法関係とは解し得ず、右勤務関係は原則として、一般公務員と同様、公法的規制の下に置かれているものとみざるを得ない。

(2)  原告は一般公務員についても、その法律関係における行政庁の行為がすべて当然に行政処分ではなく、実定法上明文の存しない限り、私企業における労働契約関係と同様の性質をもつものと解すべきであり、本件のような担務変更(配置換)命令については、実定法上これを行政処分と解すべき明文の規定がないと主張する。しかし国公法三三条、三五条、五五条、七五条一項、八二条、人事院規則八―一二の五条、六条、七五条一号、八〇条、同規則一一―四、同一二―〇の諸規定からみれば、実定法上、国家公務員の任命は、配置換命令を含めて、当然行政処分であることを前提としてそれぞれ規定がなされているものと解するのが相当である(しかして右配置換が特段の事情により著しく不利益な処分となる場合には、配置換が任命行為の一つである以上、国公法九〇条、八九条、九二条の二、人事院規則一三―一に基づき人事院に対し審査請求を経た後、抗告訴訟を提起し得るものと解する。なお公労法八条により、配置換の基準も団体交渉の対象に含まれるとしても、そのことから直ちにその基準に基づいて行われる配置換命令そのものの性質を決定することは相当でない。)。

(3)  そこで以上の観点から本件担務変更命令を検討するに、<証拠>によれば、

原告が勤務している神田郵便局郵便課は、郵便局組織規程第一条の二により設置される庶務課、会計課、郵便課、第一、第二集配課、貯金課、保険課の七課の一つであり、そのうち原告の配属先である郵便課の所掌事務は、右規則第七条により、その事務内容が明定されていること、もつとも右郵便課の仕事のうち窓口事務関係をいわゆる窓口係、それ以外の通常事務関係をいわゆる通常係と呼び事実上二分して担務がきめられていたこと、ところで窓口係、通常係の仕事は、前記被告の反論(一)、(3)、に記載のとおりであり、前者の仕事が、勤務時間も一定し、その内容も事務労働であるのに比し、後者は勤務時間も不規則で、その内容も肉体労働的なものが多いといえること、しかし勤務時間は同一でありその待遇面をも考慮すれば、後者の仕事が前者に比べ、いちがいに不利益であるとは認め難いこと、

郵便課所属の職員につき、右窓口係と通常係との入替え(担務変更)は従来局側の一方的な業務命令で指定され、これにつき局側と組合との間で団体交渉の対象となつたことはないこと、

以上の事実が認められ、<証拠判断省略>。

(4)  右事実に基づいて判断すると、郵便課所属の原告に対してなしたいわゆる窓口係から通常係への本件担務変更命令は、何ら不利益な処分その他の瑕疵あるものではなく、そもそも当初の任命行為の範囲内のものであると解されるのみでなく、原告ら郵政省職員の勤務関係ないし担務変更(配置換)を通常の労働契約関係を前提としてその同意を要するとする原告のこの点に関する主張は前判示の如く理由がなく、採用することができない。

(三)  原告の腕章着用及び取りはずし命令拒否について、原告は腕章着用は正当な組合活動であり、これの取りはずし命令は不当労働行為であるから、それを拒否したことを理由に担務変更をしたのは不当労働行為であると主張するので判断する。

(1)  郵政省職員の服装については、郵政省就業規則二五条に、「職員は服装を正しくしなければならない。職員は制服等を貸与され又は使用することとされている場合には、特に許可があつた場合のほか、勤務中これを着用しなければならない。」と規定し、この規定の趣旨を受けて郵政事業特別会計規程で原告等に対し事務服が貸与されていることは原告の明らかに争わないところである。右の趣旨について考えてみるに、対外的には郵便局職員の大部分は内勤、外勤ともに顧客に接する業務に従事ししていること、右郵便事業は国の独占する公共性の強い事業であり、そこには利用者による選択の余地がないことからこの様な一般利用者に対し、郵便局職員としての公正中立と品位を保持し、同職員であることの識別を可能ならしめ、且つ不快感を与えることを防止し、対内的には正しい服装の着用をとおして職務の規律の維持を目的とする規定であると解され、それ自体合理的根拠を有するものと言うことができる。そして右就業規則二五条の運用通達も「服装を正しくとは、社会通念により解釈される。ここでは他人をして嫌悪または卑わいの情を催させるような服装をさけるべきことを意味する」としており、右が正論であることは原告の自認するところである。しかして右観点に立ち原告の着用した本件腕章が、右規定に違反する正しくない服装に当るか否かにつき判断するに、原告が本件腕章を着用するに至つた経緯、目的、時、場所、表示内容等については、前記二、(一)、(1)のとおりであり、更に<証拠>によれば、原告ら郵政職員がこれを着用して勤務していることに対し、通常の一般市民の中には嫌悪不快感を抱く者があり、書簡又は電話等で神田郵便局長に対し抗議を申入れてきたことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。右事実によれば、本件腕章の着用は組合活動としてなされたものでその職務の遂行とまったく無関係であることは明白であり、右市民の不快感は、この様な勤務の仕方に対する不信、不安によるものと認められるところ、前記郵政事業の公共性、独占性を考えると、右市民の不快感は十分理由があるものであり、これを単なる反組合的感情にすぎないものということはできない。よつて本件腕章の着用は、被告の服装に関する定めの「正しい服装」に当らないものといわざるを得ない。

(2)  <証拠>によれば郵政省就業規則二七条が、勤務時間中の組合活動を原則として禁止していることが認められ、これに反する証拠はない。右規定は就労時の組合活動が国公法九六条、一〇一条にも規定するように就労時の職務専念義務に違背し、又職員の服務上の規律につき、使用者の命に服すべきことと衝突することとなる点で、合理的根拠を有するものと言うことができる。原告は右規定で禁止される組合活動とは勤務時間中、職場を離れたりして就労しないような場合をいい、勤務を離れず且つ労働力提供に何らの支障を与えない本件腕章着用のようなものは本条に含まれないと主張する。しかし本件腕章着用が組合の団結誇示の行為であることは原告も自認するところであり、腕章着用のままの就労は前判示の如く郵政省就業規則二七条の規定に違反することは明らかであるから、この点に関する原告の主張はすでにこの点において採用できないものであるのみならず、前記(二)で認定したとおり窓口係と通常係との入替えには原告の同意は不要であり、且つ両者の仕事内容に利益、不利益の区別、差異を認め難いのであるから、本件担務変更命令の動機如何を問わず、右命令をもつて不利益取扱とはいえず何ら不当労働行為には当らないというべきである。

(3)  しからば神田郵便局長が自ら或は部下を介し原告に対し腕章の取りはずしを命じたこと及び原告がこれを拒否したことを理由として本件担務変更命令をなしたことは何ら違法ではない。

(四)  原告は本件担務変更命令に伴う勤務時間の指定は、全逓と郵政省との間の「勤務時間及び週休日等に関する協約」付属覚書に違反する無効なものであると主張するので判断する。

(1)  勤務時間指定の性格、及びその方法については、被告の反論(三)、(1)、(2)のとおりであることは当事者間に争いがない。

(2)  右協約の趣旨は、あらかじめ職員に勤務態様を告知することにより、職員の生活上の計画等に支障をきたさないようにするための配慮と、郵政当局側の業務遂行上の調和にあることは明白である。それ故原則として一旦なされた勤務指定を、むやみに変更し得ないことは当然ではあるが、業務の正常の運営を確保する必要上例外の存することも又予定されるところであり、<証拠>によれば郵政事業職員勤務時間、休憩、休日および休暇規程二六条但書、二八条には右例外の場合を明定し、又前記附属覚書一九項但書、二一項にもこの点の規定が存することは当事者間に争いがない。

(3)  ところで上司の再三の取りはずし命令にも拘らず郵政省就業規則二六条、二七条に反し腕章着用の上窓口係として就労を強行しようとしている原告に対し、神田郵便局長がなした通常係への前記担務変更命令は、前記(二)、(三)判示のとおり何ら違法ではないのであるから、右担務変更命令に伴い、その勤務時間も各規定に従い当然従来の窓口係のそれとは別のものとならざるを得ないことはやむを得ないことであつて、本件勤務時間指定は前記協約付属覚書一九項但書の規定に準ずるものとして、右協約の趣旨に何ら反するものではないと解するのが相当である。<証拠判断省略>

(五)  原告は本件懲戒処分は権利の濫用である旨主張するけれども、これを認めるに足る証拠なく、原告の右主張は採用するに由ない。

(六)  以上を総合すれば、原告が上司の職務上の命令を無視し、その職務を放棄したことは明らかに違法であり、右職場秩序をびん乱する行為は、国公法九八条一項、九九条、一〇一条一項にそれぞれ違反し、同法八二条各号に該当するものといわざるを得ない。

(七)  しからば被告が右を理由に原告に対してなした本件懲戒処分は正当であるから、原告の本訴請求は理由がなく失当として棄却を免れず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(中島恒 根本久 中田昭孝)

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